立ち食い寿司の店で、無理やり座らせてもらったことがあります。
いや、無理やりって言っても、壁の角にポツンと1個だけ置かれた丸椅子を、目ざとく見つけて「座っていいですか」とお願いしただけ。でもそれが、ちょっと背徳感があって、ずるくて、最高に幸せな昼飲みの始まりだった──神田「立ち食い寿司 大松」での、ある日の話。
老舗そば屋のあと、もう一軒いきたくなる病
お腹はもう十分、満たされているはずだった。
ついさっきまで、かんだやぶそばで極上の”そば前”をやっていた(▶︎前回記事:【女のん兵衛 探訪記】かんだやぶそばで出会った、最高のそば前と老舗の風景)。
なのに、暖簾をくぐって神田の街に戻った瞬間、心のどこかがつぶやく。
「……もう一軒、いけるな」
のん兵衛の女ってそういう生き物なんです。
「せっかく神田まで来たから」の、大松
実は大松が神田に何店舗かあるのは前から知ってた。「いつか行ってみたい」リスト入りしていたお店。
だから今日、せっかく神田まで来たんだから行ってみようと思って、やぶそばを出てから大松の看板を探しながら歩いていた。

駅前で看板を発見。「立ち飲み 大松 神田駅前店」──のれんには堂々と「立ち食寿司」。系列のうちどれかは分からないけど、とりあえず「大松」って書いてあるのが見えたから入った。狙い通りの寄り道。
立ち飲みのはずが、目ざとく丸椅子を見つけた
最初は普通に立って飲み始めた。のれんをくぐって、カウンターの端でレモンサワーを待ちながら、ふと視線を動かしたとき──。
壁の角に、ポツンと丸椅子が1個だけ置かれているのが目に入った。
他にイス席はない、本当にその1個だけ。やぶそばで食べた直後で立ちっぱなしはちょっとキツいな、と思っていた矢先の発見。これは目ざとく気づいた私の勝ち。
ダメ元で海外出身の女性スタッフさんに聞いてみた。
「あの丸椅子、座ってもいいですか?」
にっこり「いいですよ」。
でも申し訳ないから一応、正直に宣言しておいた。
「私、めっちゃ食いますから!めっちゃ飲みますから!めっちゃ貢献しますから!」
笑顔で通してくれた。交渉成立。
あんこうの煮こごりのサービス

人気メニューだという「あんこうの煮こごり」。あん肝好きとしては見逃せない。あん肝がはいっているやつ。
出汁の効いたゼリー?が口の中でふるっと崩れて、普通にうまい。あん肝感はあまりないけれど・・・。
板前さん、サービスで追いあんこう降臨
そしたらここで、ちょっとしたドラマが起きた。
カウンターの常連おじさんたちに、板前さんが何か配ってる。ちょうど板前さんの交代のタイミングっぽくて、上がる前の粋な振る舞いだったのかも。
渡していたのは──あんこうの煮こごり。
「さっき私、注文したばっかりなんですけど!?」
板前さん、私のほうにも「どうぞ〜」って。
「いや、私もう注文していただいてますので大丈夫です〜」と断ったら、
「いやいや、どうぞどうぞ」
……いただきます!
結果、同じものをもう一皿、追加で食べちゃった。いらないっちゃいらないんだけど、こういう人情、断るのは粋じゃない。ありがたくいただきました。
その後、板前さんは新しい方と交代していった。最後のひと仕事が私の胃袋に降ってきた格好です。
220円の「ヒラメの昆布締め」が衝撃だった

メニューで二度見したのがヒラメの昆布締め220円。
運ばれてきた白身を一切れ。
昆布の甘みと香りが、しっかり身に移ってる。ヒラメの繊細な甘みを、昆布が優しく包み込む。生の刺身とは違う、”仕事された魚”の味。
220円でこれ、都心の相場観が崩壊する。
なめろうはイワシ。元いわし屋の本気

そして主役、なめろう。
普通なめろうってアジで作るものだけど、ここは元々いわし料理のお店らしくて、イワシで作ったなめろうが名物。黒い楕円の器にこんもり、ねっとり系の叩き。
ひと口で、脳が「うまっ」と勝手に声を出した。イワシの旨味・味噌のコク・香味野菜の清涼感、全部がちょうどいい。
感動して板前さんに声をかけた。
「めっちゃ美味しいですね!ここ、いわし屋さんなんでしょう?」
「よく知ってますね」
「ちゃんと予習してきました!」
──板前さんとのこういう短いやり取りが、立ち食い寿司の醍醐味なんですよ。
レモンサワーは専用ジョッキで
つまみと一緒に頼んだのはレモンサワー。アルミの筒みたいな専用容器には「酒場のこだわり 一、レモン丸ごとを閉じこめた 二、ド真ん中の味わいを 三、強炭酸で召し上がれ!!」と書かれていて、この時点で勝ち確。
なめろうで火がついて、止まらなくなった話
本当はこれで終わる予定だった。お腹も満腹だったし。
でも、なめろうで火がついちゃった。
気づいたら頼んでた──うに、大トロ、いくら、マグロ。大好きなネタが走馬灯のようにカウンターに並んで、気づけば全部平らげていた。

うには甘くてとろける。大トロはサシが美術品。いくらはパンッと弾けて後味に日本酒を呼ぶ(呼ぶけど私はレモンサワー)。
……で、オチ。握りは意外と侮れない
ここで大松の落とし穴。

110円の赤身から始まるから「安い!」って気楽に構えてたんだけど、大トロは440円、うにも440円。つまみ系は確かにお得なんだけど、握りは調子に乗って食べるとそれなりに行く。
サービスの追いあんこう、衝撃の220円昆布締め、めっちゃ美味しかったイワシなめろう、そして板前さんとの会話。
立ち食い寿司なのに無理やり座らせてもらったし(笑)、楽しくて美味しかった。
またなめろう食べに行きたいな。
【訪問メモ】
- 店名:立ち食い寿司 大松 神田駅前店(1階)
- 営業時間:11:00〜23:00
- 系列店:2階に「立ち飲み 大松」(いわし料理専門)/神田エリアに複数店舗あり
- 訪問日時:2026年◯月、平日15時台(かんだやぶそばからのハシゴ)
- お会計目安:約3,000円(※握りを調子に乗ると上がるので注意)
- 個人的ベスト3:イワシのなめろう/220円ヒラメ昆布締め/サービスの追いあんこう煮こごり
※価格・営業情報は訪問時点のものです。