福島第一原発事故のニュースは、廃炉やALPS処理水の話題が出るたびに流れてきますが、「結局、今どこまで進んでいるのか」がわかりにくいと感じたことはないでしょうか。事故から2026年で15年が経ち、報道も年々散発的になっています。この記事では、廃炉工程・燃料デブリの取り出し・処理水放出・避難指示区域という4つの軸から、2026年8月時点の「今」を公式データをもとに整理します。
福島第一原発の廃炉は今、何合目なのか
廃炉とは、原子炉施設を安全に解体・撤去し、最終的に敷地を更地に近い状態へ戻す作業のことです。政府と東京電力は事故直後に「中長期ロードマップ」を策定し、廃炉完了の目標時期を事故から30〜40年後、つまり2041年から2051年ごろに設定しています。
2026年8月時点で事故発生から満15年が経過しており、廃炉工程はロードマップのちょうど折り返し地点付近にあります。東京電力は2026年度の廃炉費用として2,578億円を計上する計画を示しており、これは前年度比26億円減となります。内訳は放射性廃棄物対策に413億円、燃料デブリの取り出し準備に132億円などです。年間2,500億円規模の費用を、あと15〜25年にわたって支払い続ける計算になります。
燃料デブリの取り出しは「グラム単位」の世界
燃料デブリとは、事故で溶け落ちた核燃料と、周囲の構造物が冷えて固まった物質のことです。1号機から3号機の炉内に、推定で合計約880トン存在するとされ、これを取り出すことが廃炉全体の最大の難関とされています。
2号機では、事故から13年8か月が経過した2024年11月に初めての採取に成功し、2025年4月に2回目の採取を実施しました。2回とも比較的狭い場所を通れる「釣り竿型」のロボットが使われ、2回分を合わせた回収量は約0.9グラムです。880トンという推定総量(1号機279トン・2号機237トン・3号機364トン)に対して、2回分を合わせても取り出せた量はごくわずかにとどまっているのが現状です。これは作業の失敗を意味するものではなく、強い放射線環境の中でロボットを内部に到達させ、性状を分析するための試料を採取するという、人類が経験したことのない工程を一歩ずつ積み上げている段階だといえます。
日本原子力研究開発機構(JAEA)が2026年8月に公表した分析結果では、1回目と2回目のデブリは採取地点が1メートルほど異なるにもかかわらず、生成過程がほぼ同じだったとみられています。東京電力の小野明プレジデント(廃炉・汚染水対策の最高責任者)は、この結果について「事故進展解析など、今後の重要なカギになる」と述べています。
3回目の試験的取り出しには、これまでより大型で先端部分を交換できる新しいロボットアーム(開発費約78億円)が使われる計画で、2026年4月に原子炉建屋へ搬入されました。当初は「順調にいけば2026年7月以降に着手する」とされていましたが、アームの姿勢を保つモーターに不具合が見つかったため7月中の着手は断念され、本記事執筆時点(2026年8月28日)でも具体的な着手日は決まっていません。最新の実施状況は東京電力の公式発表で確認することをおすすめします。
また、2026年8月には3号機で新たな事実が判明しました。事故前に核燃料を覆っていた「圧力容器」の底に、直径約3メートルの穴が見つかったのです。1〜3号機のいずれかで圧力容器の穴が確認されたのはこれが初めてで、東京電力の小野プレジデントも「私の想像よりも大きかった」とコメントしています。3号機では格納容器上部から工具を入れ、ウォータージェットでデブリを砕いて回収する大規模取り出しが計画されていますが、開始時期は従来目標の「2030年代初頭」から2037年度以降へと後ろ倒しになっています。
福島第一原発の廃炉は、2号機でのデブリ採取着手をもって最終段階とされる「第3期」に入ったとされています。ただし、何をもって「廃炉完了」と判断するのか、明確な基準はまだ示されていません。
一方、使用済み燃料プールからの燃料取り出しはデブリよりも順調です。3号機では2026年6月2日に取り出し作業が始まり、2028年度の完了が見込まれています。全号機のプールからの取り出し完了は2031年内を目標としています。
廃炉費用と賠償、合計15兆円規模の重み
福島第一原発事故に伴う賠償・除染・廃棄物処理・中間貯蔵施設という4つの事業を合わせた総額は、約15兆4,000億円と見積もられています。2026年時点で、このうち約11兆6,000億円がすでに支出済みです。賠償だけを見ても見積総額は13兆7,578億円にのぼります。
デブリ取り出し計画の見積もりが具体化したことを受け、東京電力は2026年3月期に9,138億円の特別損失を計上しました。廃炉作業が「前進」して現場の状況が明らかになるほど、費用の見積もりも精緻になり、結果として追加の特別損失が計上されやすくなるという構造が続いています。
ALPS処理水の海洋放出は今、どこまで進んだのか
ALPS処理水とは、東京電力福島第一原発の建屋内にたまった汚染水を、多核種除去設備(ALPS)などの浄化設備でトリチウム以外のほとんどの放射性物質を取り除いた水のことです。2023年8月に海洋放出が始まり、2026年も継続しています。
放出にあたっては、トリチウム濃度を国の規制基準(1リットルあたり6万ベクレル)の40分の1にあたる1,500ベクレルまで海水で薄めたうえで放出する運用が取られています。放出前後の状況は、東京電力に加えて国際原子力機関(IAEA)や、韓国・スイス・中国など第三国の分析機関による国際的なモニタリング体制のもとで継続的に検証されています。
2026年に入ってからも、IAEAの枠組みによる追加的モニタリングのための試料採取が複数回実施されました。これまでに公表された分析結果はいずれも、「人や環境に対する影響は無視できるほど小さい」とする2023年7月のIAEA包括報告書の結論と整合していると報告されています。処理水を貯蔵してきたタンクの保有量は、海洋放出開始前と比べて減少傾向にあります。直近のタンク基数や貯蔵量は変動するため、東京電力の処理水ポータルサイトでの確認が確実です。
廃炉作業員の被ばくと労災認定の実態
廃炉の「その後」を語るうえで欠かせないのが、現場で働く作業員の健康被害です。厚生労働省が公表したデータによると、事故対応にあたった作業員のうち、白血病の労災認定基準の一つである年間被ばく線量5ミリシーベルトを超えた人は、2026年3月末までの約15年間で延べ5万3,145人にのぼります。
年50ミリシーベルトを超えた人数は、2010年度403人、2011年度205人、2012年度1人と急減し、2013年度以降はゼロが続いています。1人あたりの平均被ばく線量も、2010年度の21.6ミリシーベルトから、2015年度4.3ミリシーベルト、2020年度2.6ミリシーベルト、2025年度1.7ミリシーベルトへと低下傾向を示しています。
一方で、実際に発症した病気が事故対応の被ばくと因果関係があると認められた労災認定は、2026年3月末までに計17件です。内訳は白血病8件、咽頭がん・甲状腺がん・肺がん・結腸がんが各2件などとなっており、このうち少なくとも2件で作業経験者の死亡が明らかになっています。白血病の認定基準は「被ばく線量5ミリシーベルト×従事年数以上、かつ被ばく開始後1年を超えて発症」、固形がんの認定基準は「累積被ばく線量100ミリシーベルト以上、かつ被ばくから発症まで5年以上」とされています。廃炉完了は2041〜2051年とされており、今後も多数の作業員が働き続ける見通しであることから、労災認定件数はさらに増える可能性があります。
避難指示区域の「今」——帰還した人、まだ戻れない場所
事故直後、福島県内の避難者は2012年5月にピークの約16万人に達しました。除染やインフラ整備が進んだことで避難指示は段階的に解除され、2020年3月には帰還困難区域を除くすべての地域で避難指示が解除されています。
帰還困難区域とは、放射線量が高く将来にわたって居住が制限されるとされてきた区域のことです。このうち「特定復興再生拠点区域」(各市町村が復興計画を作成し、内閣総理大臣の認定を受けて除染・インフラ整備を集中的に行う区域)については、2023年5月までにすべての避難指示が解除されました。帰還困難区域全体の面積は約337平方キロメートルにのぼりますが、特定復興再生拠点区域はそのうち約28平方キロメートルにとどまります。面積としては全体の1割に満たない一方、人口ベースでは帰還困難区域の住民の約7割をカバーしているとされています。
2023年6月には、特定復興再生拠点区域の外側にも避難指示解除の対象を広げる「特定帰還居住区域」という制度が新たに設けられました。大熊町・双葉町では2023年12月から、浪江町・富岡町でも2024年6月から、この区域の除染とインフラ整備が始まっています。認定されている区域面積は約21平方キロメートルで、これらの解除が進んでも、帰還困難区域の8割以上がなお残る見通しです。
除染で生じた土壌などは、中間貯蔵施設に搬入されています。2025年10月末時点で約1,418万立方メートルが搬入され、搬入作業自体はおおむね完了しました。法律により、貯蔵開始から30年以内、つまり2045年3月までに福島県外で最終処分することが定められており、政府は2025年8月に工程表を取りまとめ、2035年をめどに処分候補地を選定する方針を示しています。
福島県内の避難者数は、ピーク時の約16万人から2026年時点で約2万4,000人まで減少しました。人数としては大きく減っていますが、帰還困難区域の大部分が今も残っている以上、「避難指示区域はすべて解除された」とは言えない状態が続いています。
まとめ
福島第一原発事故は発生から15年が経ちましたが、廃炉はロードマップの半ばに過ぎず、燃料デブリの取り出しはようやくグラム単位から始まったところです。ALPS処理水の放出は国際的な監視のもとで継続し、避難区域は徐々に解除が進む一方、帰還困難区域の大部分は今も残っています。「終わった事故」ではなく「今も続いている事故対応」として捉える視点が欠かせません。
よくある質問(FAQ)
Q1. 福島第一原発の廃炉はいつ終わりますか? 政府と東京電力の中長期ロードマップでは、事故から30〜40年後、2041年から2051年ごろの完了が目標とされています。2026年時点で事故から15年が経過しており、工程としてはまだ折り返し地点付近です。
Q2. 燃料デブリとは何ですか? 事故で溶け落ちた核燃料と、周囲の構造物が冷えて固まった物質のことです。1〜3号機の炉内に推定で合計約880トン存在するとされ、廃炉最大の難関とされています。
Q3. デブリの取り出しはどこまで進んでいますか? 2号機では2024年11月と2025年4月に試験的取り出しが行われ、2回合わせた回収量は約0.9グラムでした。3回目はより大型のロボットアームを使う計画でしたが、設備の不具合により2026年7月中の着手を見送っており、着手日は本記事執筆時点で未定です。また2026年8月には、3号機の圧力容器底部に直径約3メートルの穴が見つかったことも新たに判明しています。
Q4. ALPS処理水とは何ですか?海洋放出は安全なのですか? 建屋内の汚染水からトリチウム以外の放射性物質をほとんど取り除いた水のことです。海水で大幅に薄めたうえで放出され、東京電力に加えてIAEAや第三国分析機関による国際的なモニタリングが継続されています。
Q5. 福島第一原発の作業員に健康被害は出ていますか? 2026年3月末までに、被ばくとの因果関係が認められた労災認定は計17件です。内訳は白血病8件、咽頭がん・甲状腺がん・肺がん・結腸がんが各2件などで、少なくとも2件で死亡が明らかになっています。
Q6. 避難指示はまだ続いていますか? 帰還困難区域の一部(特定復興再生拠点区域)は2023年5月までに解除されましたが、帰還困難区域全体(約337平方キロメートル)の8割以上はなお避難指示が続く見通しです。福島県内の避難者は2026年時点でも約2万4,000人にのぼります。
Q7. 除染で出た土壌はどうなるのですか? 中間貯蔵施設に一時保管されており、2025年10月末時点で約1,418万立方メートルの搬入がおおむね完了しています。法律で2045年3月までに福島県外で最終処分することが定められており、2035年をめどに処分候補地を選定する方針です。
出典
- 東京電力ホールディングス 廃炉プロジェクト|処理水ポータルサイト(多核種除去設備等処理水の状況)
- 外務省|ALPS処理水海洋放出の安全性
- 外務省|ALPS処理水とは?
- 外務省 報道発表|ALPS処理水の海洋放出に関する国際原子力機関の枠組みの下での追加的モニタリングの分析結果に関する報告書の公表
- 福島テレビ(FTV)|3回目のデブリ取出し 不具合確認で7月着手を断念<福島第一原発>(2026年7月30日配信)
- 福島テレビ(FTV)|東電「想像よりも大きかった」圧力容器底部に直径3mの穴<福島第一原発>(2026年8月28日配信)
- 福島テレビ(FTV)|2回の採取デブリ 別の場所から採取も「生成過程は概ね同じ」か<福島第一原発>(2026年8月28日配信)
- 環境省|除染情報サイト
- 福島県ホームページ|廃炉安全監視協議会
- 浪江町ホームページ|すぐわかる浪江町(なみえまち)の現況
- 大熊町ホームページ|除染
- 厚生労働省|電離放射線障害の業務上外に関する検討会
- 時事通信|被ばく作業員の労災認定に関する記事(2026年8月23日配信)
- 日本原子力文化財団|周辺住民や飲食物への影響

