10月27日は「読書の日」。そこで、私が最近読んだ、今年4月に刊行された 俵万智さんの新書 『生きる言葉』(新潮社)をご紹介します。刊行からわずか数か月で11.5万部突破という異例のロングセラーになったこの本の魅力とは?
クソリプに学ぶ
私がこの本を知ったのは、広告でこんな言葉を目にしたからです。「クソリプに学ぶ」。これは、本書のある一節のタイトルで、強烈に印象に残りました。著者の俵万智さんについては、短歌「サラダ記念日」の作者であること以外はよく知らず、歌人としての印象しかなかったので、そんな人から「クソリプ」という言葉が出てくることに一気に興味を掻き立てられました。
このタイトルの章では、ご自身の炎上経験なども踏まえ、クソリプの種類やその対処法などが書かれていてとても面白かったです。
他にも、「マルハラ」(中高年世代がチャットで句点を使うことで若者に威圧的に感じられる現象)など、日常の小さなズレに注目する章も面白く、なぜ世代で感じる違和感があるのかを、俵さんならではの視点で解説されていてとても納得しました。
幅広い読者層
“新書で10 万部突破”というのも珍しいですが、さらに注目すべきはその読者層です。本来、新書市場では中高年男性が中心というイメージがありますが、本書では女性、若者、子育て世代の読者も多く、新書としては異例の展開になっています。
特に子育て世代に刺さったようで、実は私もその一人です。俵さんには一人息子がおり、山奥の全寮制中学に行かせたり、独自の子育てをされています。私にも一人息子がいるのでどこが重ねて見てしまい、中学時代に離れて暮らす息子からかかってきた貴重な電話(その中学校ではスマホ携帯禁止)の声を臭いを嗅ぐように聞き入るという表現の短歌には、気持ちが重なりすぎて泣けました。
10万部突破記念、俵さんのコメント
出版直後に、いくつかのインタビューを受けたとき、普段とは違う手ごたえを感じた。みなさん、熱い。写真を撮ったら途中で帰るはずのカメラマンが居残って、話に加わってきたこともあった。なんというか、自分ごとなのだ。言葉と無縁で生きている人はいないし、今、言葉について悩んだり迷ったりしている人がたくさんいる……そのことが実感された。
SNSでも同様だ。本書に書いたように、クソリプを観察してクソリプ耐性をつけた私は、今回「#生きる言葉」などでエゴサしている。「笑った」「泣いた」「いい時間が持てた」……投稿してくれている世代もさまざまで、中には高校生の息子から勧められて読んだというお母さんもいた。子育て本という読み方もできるようで、たしかに第一章で赤ちゃんだった息子は「おわりに」では、私と母のいさかいを、みごとに言語化して救ってくれるまでになった。嬉しいのは「初めて新書を最後まで読んだ!」「わけわからんくらい読みやすい」といった声だ。言葉について書かれた本の言葉が、読みにくかったらシャレにならない。実は尋常じゃないくらい推敲した。某有名塾で、さっそくテストに使われたとも聞き、ガッツポーズである。
「演劇や和歌はともかく、AIからラップまで、守備範囲が広いですね」とも言われる。自分は言葉のオタクなんだと思う。つまり私の推しは「言葉」。推し活だから、あらゆる現場に足を運んでしまう。
この本をきっかけに、言葉について考え、立ちどまり、身近な誰かと話すような時間が生まれてくれたら、嬉しい。簡単に言葉を届けられる時代だからこそ、そういう時間が、一人一人の「今日を生きる言葉」を豊かにしてくれるのではないかと思う。
最後に、書店員さんはじめ本書を読者に届けてくれた方々へ心から感謝したい。みなさんのお力なくしては十万部(!)は、ありえない。そして引き続き、よろしくお願いします。 俵万智
俵さんは、短歌界において長年にわたり言葉と親しんできた“言葉のプロ”。「言葉オタク」とご自身を表現されていますが、こうした「言葉を好きだからこそ立ち止まって考える」という姿勢が、SNS時代の言葉に悩む人に深く共感され、10万部突破という快挙に繋がっているのではないでしょうか。
読書の日である今日、ぜひこの一冊を通じて「言葉とどう生きるか」を少し立ち止まって考えてみてはいかがでしょうか。言葉をただ受け取るだけでなく、「自分の言葉を生きる言葉へと育てる」きっかけになるかもしれません。