【ジェンダーや家族の在り方を描いたヒューマンドラマ】「彼らが本気で編むときは、」観てみた ※微ネタバレ注意

100%とは言えませんが、昔よりもLGBTQについて理解が進んできた昨今、映画界でもLGBTQをテーマにした作品や主人公がゲイやレズビアン、トランスジェンダーである作品が増えてきました。
今回ご紹介する作品「彼らが本気で編むときは、」もLGBTQに加え、家族の在り方がテーマになっています。
トランスジェンダーの主人公リンコを生田斗真さん、その恋人マキオを桐谷健太さん、母親に置き去りにされたマキオの姪トモを柿原りんかさんが演じました。
トランスジェンダーの女性という難しい役どころを生田斗真さんが演じたことでも話題となり、ベルリン国際映画祭では、日本映画初のテディ審査員特別賞と観客賞をダブル受賞しています。

予告編がこちら。

あらすじ

小学5年生のトモは、唯一共に暮らしていた母が男を追って家を出ていきひとり放置されてしまう。叔父マキオの家へと向かうトモ。優しく迎えてくれたマキオの傍らには、初めて会う女性リンコがいた。マキオの恋人だというリンコは、男性として生まれ、性別適合手術を受けて女性となったトランスジェンダーだった。

溢れるほどの愛と優しさ

この映画を見終わった後、みんな優しい気持ちになるんじゃないかと思うほど、リンコさんは愛と優しさに溢れた人物でした。
トモのために可愛いキャラ弁を作ってあげたり、トモから「お母さんでもないくせに」と傷つくことを言われたのにも関わらず、しっかり向き合って話をしたり。トモを娘のように可愛がるところに胸がジーンと暖かくなりました。
そんなリンコさんとトモの2人のやり取りの中で印象に残ったのが、リンコさんがトモに編み物を教えるシーン。
リンコさんは「編む」という行為について、「私はね、悔しくて悔しくて『ちくしょー!ふざけんなっ!』ってそう思ったときに編むの。嫌なことがあっても悔しいことがあってもこうしていると心がすーっと平らになる。」と語ります。

リンコさんは、きっと今まで数え切れないほど嫌な思いをして”理解されない”ということを経験してきたと思うんです。そしてその度に一針一針編んでいく。リンコさんにとって編むことは、自分の生き方を示すものなんだろうな。

その編み物を教えたのはリンコさんの母・フミエさんなんですが、個人的にとても好きな人物でした。
リンコさんがまだ「リンタロウ」だった中学時代、体は男性、心は女性であるトランスジェンダーのリンコさんにとって、男子だけで受ける体育の授業は苦痛でしかなく、リンコさんは体育の授業をサボっていました。そのことでフミエさんは学校から呼び出され、先生から「体育は受験と関係ないからってナメてるんじゃないですか?」なんて言われて帰ってきます。
子どもが授業をサボっていたなんて知ったら、世の中のお母さんのほとんどは「何してんの!」と怒っちゃうと思うんですけど、フミエさんは怒って叱るなんてことはせず、リンコさんの側に寄り添います。
「自分のおっぱいが欲しいの・・・」と言うリンコさんを「そうだよね、リンちゃん女の子だもんね。」と優しく受け入れ、3つのブラジャーと毛糸で作った「ニセ乳」をプレゼントします。
ここまで受け入れて理解したうえで全肯定してくれるフミエさんに感動して涙が出ました。

中でも、トモに対して「リンコを傷つけるようなことをしたらいくら子どもでも許さない」と言ったり、「自分の娘が一番可愛いんだもん」という言葉が印象的でした。

そんな愛情深いフミエさんに育てられてきたリンコさんだからこそ、他人にも愛をもって接することができるんだと思います。

親という存在

物語終盤、トモの母・ヒロミが帰ってきます。リンコさんとマキオがヒロミに「トモを引き取ろうと考えている」と話すと「トモは私の娘よ!?あげるわけないじゃない!」と当然ながら反対し、「トモに生理が来たとき、どうやって教えるの?胸が大きくなったとき、どんなブラジャー着けるか教えられるの?女じゃないあなたは母親にはなれない!」とリンコさんを責め立てます。

隣で聞いていたトモは、ヒロミをバシバシ叩きながらこう叫びます。

「リンコさんは編み物教えてくれた。ご飯作ってくれた。キャラ弁作ってくれた。髪の毛綺麗に結んでくれた。それなのに、どうしてママはしてくれないの?どうしてもっと早く迎えに来てくれなかったの?」

子どもが親に求めることは、愛を与えてもらうことなのかなと、この言葉で親という存在が子どもにとってどれほど大切なのか深く考えさせられました。

最後に

ジェンダーや育児放棄など重くなりそうなテーマでありながら、クスッと笑えて和むようなシーンがあったり美味しそうな料理が出てきたり、全体を通して柔らかく描かれていました。

この映画を見るときは、映画の内容だけでなく俳優さんの演技にもぜひご注目いただきたいです。
生田斗真さんが演じるリンコさんは、座るとき、食べるとき、ビールを飲むときなど、細かい仕草にまで女性らしさを感じます。登場時は、その女装姿に少し無理してる感がありましたが、だんだん気にならなくなるほど馴染んでいきます。

トモを演じた柿原りんかさんも、小学5年生らしい無邪気さを自然に演じられていて、とても可愛らしかったです。
リンコとマキオとトモの3人でピクニックに行くシーンは本当の家族のようでこちらまで暖かく幸せな気持ちになります。

優しい気持ちになりたい人、LGBTQについて興味がある人もそうでない人にもぜひ観ていただきたい作品でした!

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