【暴走する自己愛】行き過ぎた承認欲求を描いた“セルフラブ”ストーリー「シック・オブ・マイセルフ」観てみた

今回ご紹介するのは破滅的な自己愛と承認欲求を描いた映画「SICK OF MYSELF(シック・オブ・マイセルフ)」。
カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門で高い評価を受け、「ミッドサマー」のアリ・アスター監督や映画配給会社「A24」からも絶賛された作品です。
SNSで紹介されているのを見て、さらにあのアリ・アスター監督が絶賛しているというので気になって観てみました。

予告編がこちら。

あらすじ

カフェ店員として働くシグネは、恋人のトーマスが現代アーティストとして注目を浴び始めたことに嫉妬心を抱いていました。
ある日、カフェの前で犬に首を噛まれた女性の手当をしたことで血まみれになってしまうのですが、その時周囲から注目を集めたことに快感を覚え、「もっと自分に注目してほしい」という思いから、たまたまネットで見つけた副作用として痛々しい皮膚病を引き起こす薬を手に入れ服用するようになります。
次第にシグネの顔や体に症状が現れ、思惑通り周囲からの注目を集めることに成功するのですが、自分に注目が集まり続けることを望み、行動はさらにエスカレートしていきます。

笑っちゃうほど異常な承認欲求

この作品は誰しもが心の奥底に秘めている“承認欲求”がテーマとなっています。SNSが生活の一部となっている現代においても度々話題になっていますよね。
“自分を認めてほしい”という思いは必ずしも間違っているとは思いませんが、現代はそれを過剰に表に出してくる人が一定数いることも事実。(だいたいはその人の環境が原因だったりするんですが…)

そんな承認欲求が行き過ぎてしまった主人公シグネが、だんだんと破滅の道を歩んでいく様を真正面から卑しく、そしてコミカルなテイストで描き出しています。

内容としては、主人公の承認欲求が激ヤバでしたという一言で終わりといえば終わり。誰かに救われるというみたいなものもありません。ですが、それが逆にリアルというか、あんだけ周りに嘘ついてめちゃくちゃやっちゃってたんだからそりゃそうなるよな~って感じの結末でした。

そのシグネのイカれっぷりはもう笑っちゃうほど。
犬に首を噛まれた女性を手当して注目を集めた経験から、「自分も傷を負えば見てもらえるのでは?」という考えに至りわざと犬に噛まれようとしたり、アーティストとして活躍する恋人トーマスが開いたパーティーでは、トーマスばかり注目を集めることが気に入らず、トーマスのスピーチ中にわざと咳き込んだり、ピーナッツアレルギーだと嘘をついたり・・・。「そこまでする?」な行動ばかりで見ていて本当にイタかったです笑

トーマスもトーマスで、現代アーティストと名乗りながら実際はインテリアショップで盗んできた椅子を使って手を加えていただけというただの犯罪者でしかなく、薬物の過剰摂取で重い皮膚病を抱えてしまったシグネに対しても、“難病を患う彼女を献身的に支える彼氏”という理想像に浸りたいだけ。めちゃくちゃクズ男です。

まあお互いそんな感じなので意外とお似合いだったのかもしれませんね。

自分の人生にうんざり

タイトルの「SICK OF MYSELF(シック・オブ・マイセルフ)」は、直訳すると“私の人生の病気”という意味になりますが、スラングでは「自分の人生にうんざり」という意味なんだそう。

皮膚病のこともですが、嘘をついてまで注目を集めようとするイカれた感覚のことも言っているのかなと思います。
実際に、シグネのような周囲の気を引くために自分自身をわざと傷つけたり、小さな出来事を大げさに話したりすることに「ミュンヒハウゼン症候群」という病名が付いています。
シグネももしかしたらこれなんじゃないかな~と思いました。
精神的な問題があるんじゃないかということでセラピーに参加させられていましたしね。

ここまでシグネのことを散々激ヤバだと言ってきましたが、正直シグネの気持ちも分からなくはないというか、シグネの場合、異常なまでの承認欲求の原因は恋人トーマスなんじゃないかと思うんです。
シグネより上の立場にいたいのか、シグネが言う事に対していちいち小言をいったりマウントを取ったり、盗んだ椅子を一緒に運ばせといてパーティーでは彼女と伝えられておらず、妹だと関係性を間違えられてしまいます。トーマスがそんな感じだから常にトーマスへの競争心と誰かに自分を認められたいという思いがいっぱいになってしまったかのなと。
もしトーマスでなく別の人と付き合っていたら全く違った人生を送っていたのではないかと思います。

最後に

シグネに対してかなり嫌悪感を抱いてしまう、毒素強めな作品でした。
また、作中センシティブな部分に触れる攻めたシーンもあるのでそこが気になる方や不愉快に思う方もいるかもしれません。もし承認欲求が強い人が見たらどういう感情になるのかなと思いました。

個人的に恐怖感じたのは、シグネの自分にとって都合が悪いことが起きると、頭の中で都合の良い妄想をするところ。皮膚病の原因が薬物の過剰摂取だとバレそうになったときも、本を出版してそれがバカ売れして世間から大注目を浴びるなんて妄想をしていて、そんな時まで注目を集めたいのかとその異常性に恐怖を感じました。

あまりおすすめできるような作品ではありませんが、気になった方はぜひご覧ください。

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