自殺率。
目を覆いたくなるような単語ですが、私達をこれを直視し、よりよい社会を目指していかなければなりません。
この全く不名誉な数値において、我が国日本が先進国の中で1位ということを、メディアで耳にした方も多いのでは無いでしょうか。
事実、各国の調査時期に差はあるものの、G7(日本・フランス・米国・ドイツ・カナダ・英国・イタリア)の中で日本の若者の死因1位は自殺となっています。(厚生労働省の資料による)
10~19歳の死因順位
国名 | 1位 | 2位 | 3位 |
日本 | 自殺 | 不慮の事故 | 悪性新生物(癌) |
アメリカ | 不慮の事故 | 自殺 | 他殺 |
フランス | 不慮の事故 | 悪性新生物(癌) | 自殺 |
ドイツ | 不慮の事故 | 自殺 | 悪性新生物(癌) |
カナダ | 不慮の事故 | 自殺 | 悪性新生物(癌) |
イギリス | 不慮の事故 | 自殺 | 悪性新生物(癌) |
イタリア | 不慮の事故 | 悪性新生物(癌) | 自殺 |
20~29歳の死因順位
国名 | 1位 | 2位 | 3位 |
日本 | 自殺 | 不慮の事故 | 悪性新生物(癌) |
アメリカ | 不慮の事故 | 自殺 | 他殺 |
フランス | 不慮の事故 | 自殺 | 悪性新生物(癌) |
ドイツ | 自殺 | 不慮の事故 | 悪性新生物(癌) |
カナダ | 不慮の事故 | 自殺 | 悪性新生物(癌) |
イギリス | 不慮の事故 | 自殺 | 悪性新生物(癌) |
イタリア | 不慮の事故 | 自殺 | 悪性新生物(癌) |
10~20歳代でどちらも死因の1位が「自殺」なのは日本のみです。
そもそも死因に「自殺」があるという時点で、とても悲しい事実に感じますし、自ら命を断つという選択をしているのであれば、救うことを考えるのは至極同然の心理です。
「なんとかしなければならない」となります。
しかし、正しく改善していくためには、ここですぐに感情的にならずに冷静な判断も必要になってきます。
上記の表を見て疑問に感じた方もいるかと思います。
死因の割合は?
確かに1位になっているのは日本なのですが、割合はどうなのでしょうか?
アメリカの場合死因に「他殺」が入っています。他殺が入っているのはアメリカだけで、これにも驚愕です。20歳代の順位ではドイツも「自殺」が1位になっていますが、この割合はどのようになっているのでしょうか?
日本の場合、10歳代の自殺の割合は5.9%。20歳代は17.2%。
アメリカは、10歳代の自殺の割合は6.6%。20歳代は17.5%になっています。
この時点で「日本の若者は先進国で一番自殺している」という言葉が行き過ぎたレッテルなのがわかります。
また、G7以外の国では、韓国など日本より自殺率の高い国もありますので、あくまで先進国の中でということなのですが、この”あくまで”がなく、先進国の中で日本だけが・・・という言い方をしてしまうと、さも日本だけが異常なのだと思ってしまいます。
とはいえ、自殺率だけで見ると世界的にみても6番目に高く、この問題について「より危機感をもって誰もが真剣に取り組むべき」というメッセージとも受け取れますが、もう少し掘り下げてみたいと思います。
そもそも若者の死亡率は?
「自殺の割合が高い」ということは「他の死因の割合が低い」と言い換えることもできます。
例えば自殺の割合が10年前から10%だったとしましょう。不慮の事故によるものが10年前は15%で1位、10年経って5%まで減ったら、逆転して自殺が1位になります。これは不慮の事故によって命をなくす若者が減ったと喜ぶべきことでもあるはずです。
何を言いたいのかというと、そもそも若者の死亡率はどうなっているのかということ。死因を別にしてそもそも若年層がどれくらい亡くなっているのかという事です。
先進国(G7)の10歳代での死亡割合(人口10万人当たり)
国 | 死亡者数 |
アメリカ | 242.5人 |
カナダ | 152.5人 |
フランス | 150.0人 |
ドイツ | 126.7人 |
日本 | 106.7人 |
イタリア | 83.2人 |
イギリス | 90.0人 |
死亡割合で見ると、日本は先進国中5位になっています。先程と同じ捉え方をすれば、他国よりも「不慮の事故」や「癌」などの死亡者数が抑えられていると言えます。その結果、「自殺」の割合が高くなっているのです。
この問題についてググってみると、かなりの数のページがヒットします。殆どの記事が学校などの教育、家庭環境、社会のあり方について問題点を挙げ、自殺率が1位になっていることを糾弾するものです。
もちろん、若年層による自殺の割合が減っていない事実がありますので、これを減らしていくことを考えなければなりません。
ですが、「自殺」が2位になれば、「不慮の事故」が1位になるのです。逆に言えば、不慮の事故が増えて1位になれば「自殺」が2位になります。
不慮の事故が1位ならそれでいい・・・という問題では無く、若い命を守っていく事を第一に考えていく必要があります。自ら命を断つというとても悲しい行為。そこへ向かってしまう要因を取り除いていくことは必要なのですが、悲しさが先行して盲目になり、他の死因の割合が増えてしまうような事があってはなりません。
そのような意味で、フェイクニュースとまでは言えませんが、この件については先進国で1位、国内死因1位と並べ立てることが、誤解を生んでいる印象を受けますし、ミスリードになる可能性があります。
日本の若年層の死亡率自体は、他国と比較して低いのですから、良い結果を産んでいる部分やシステムにも目を向け、悪い結果を産んでいる部分を見極めて是正する取り組みが求められます。
情報が溢れる現代で、バイアスに左右されず、反対意見にも耳を傾け、角度を変えて情報を捉え、冷静な判断をすることが重要だと感じています。