反ワクチン派になる人の特徴
東京大学・早稲田大学・筑波大学などの研究グループがコロナ禍におけるワクチンに関する大量のツイートを機械学習を用いて分析し、新たにワクチン反対派になる人の特徴を明らかにしています。
研究の背景
まず研究の背景ですが、「新型コロナウイルスによるパンデミック下では、反ワクチン的態度が集団免疫の獲得を妨げ、公衆衛生に対する脅威になる。そこで反ワクチン的態度を持つ人々の特徴を記述する研究が蓄積されつつあるが、なぜ人がワクチン反対派になるのかという「きっかけ」に関する知見は不足していた。さらに、ワクチン反対派は特定の政党や政治家と結びつくことで政治的なインパクトを持ちつつあり、日本においても反ワクチン的態度の拡散がどのような政治的含意を持つのかを明らかにする必要があった。そこで本研究は、コロナ禍におけるワクチンに関する大量のツイートを分析することで、反ワクチン的態度を持つことになる「きっかけ」を明らかにし、さらにパンデミック下で新たにワクチン反対派になった人々が特定の政党を支持する傾向を強めたことで、ワクチン反対派が政治的に代表されるようになるプロセスについても明らかにした。」としています。
研究内容
まず、2021年1月から12月までに収集された「ワクチン」を含む約1億件のツイートを収集し、機械学習を用いて「ワクチン賛成ツイート」「ワクチン政策批判ツイート」「ワクチン反対ツイート」の3クラスタを抽出した。次に、「ワクチン反対ツイート」を多くつぶやいたりリツイートしているアカウントを特定し、「ワクチン反対ツイート拡散アカウント」として定義した。そして、「ワクチン反対ツイート拡散アカウント」を多くフォローしているユーザを「ワクチン反対派」として定義。
分析は主に3つの視点から行われました。
■第1に、ワクチン賛成派と反対派を比較し、反対派の特徴を明らかにしました。
■第2に、コロナ禍以前から反対派であったユーザとコロナ禍以降に新規に反対派になったユーザを比較し、新規に反ワクチン的態度を持つようになったユーザの特徴からワクチン反対派になる「きっかけ」を明らかにしました。
■第3に、政党やその党首のアカウントのフォロー率を分析することで、新規にワクチン反対派になったユーザの政治的特徴を明らかに。
第1の分析からは、ワクチン反対派は賛成派と比べて政治的関心が強いことが明らかになり、右派的な傾向を見せるユーザもいるが、リベラルな傾向を見せるユーザの方が多数派を占めます。一方、ワクチン賛成派はワクチンに関するツイートやリツイートはしているものの、主にゲームやアニメなど私的な趣味への関心が強く、政治への関心は弱かったとのことです。
第2の分析からは、コロナ禍以前からワクチン反対派であったユーザは特に政治的関心が強くリベラルな傾向を見せるのに対して、コロナ禍以降にワクチン反対派になったユーザは政治的な傾向が弱いことが明らかになりました。一方、コロナ禍以降にワクチン反対派になったユーザは陰謀論やスピリチュアリティに関する単語がツイッターのプロフィール文に頻繁に表れることが明らかになりました。
例としては「三浦春馬」「集団ストーキング」「テクノロジー犯罪」「波動」「宇宙」「スピリチュアル」「柔軟剤」などが挙げられる。したがって、コロナ禍以降に新規にワクチン反対派になった人々は陰謀論やスピリチュアリティに対する関心がきっかけとなって反ワクチン的態度を持つようになった可能性が示唆されます。
第3の分析からは、コロナ禍以前からワクチン反対派であったユーザは立憲民主党やれいわ新選組、日本共産党のアカウントをフォローする率が高いのに対して、コロナ禍以降に新規にワクチン反対派になった人々はこうした既存の政党をフォローする傾向が弱いことがわかりました。しかし、コロナ禍以降に新規にワクチン反対派になった人々は2022年3月から9月にかけて参政党のアカウントをフォローする率が急上昇しており、陰謀論やスピリチュアリティをきっかけとして反ワクチン的態度を持ち、さらに反ワクチンを掲げる参政党への支持を高めた可能性が見えてきます。
ポイント
◆ コロナ禍で初めてワクチン反対派になった人の特徴を分析し、陰謀論やスピリチュアリティに傾倒している人がワクチン反対派になりやすく、さらに参政党への支持を高めた可能性を示した。
◆ ワクチン反対派などの特徴を分析した研究は多く存在するが、本研究ではどのようにワクチン反対派に転じるに至ったかを時系列的な分析に基づいて明らかにし、さらにその政治的含意も示した。
◆ 公衆衛生に対する脅威となりうる反ワクチン的態度の拡散を食い止めるための手がかりが得られ、将来のパンデミックに対して重要な教訓を得た。
なかなか面白い研究結果でした。
グループはまとめとして「陰謀論やスピリチュアリティそのものは直接的に政治的含意を持たない場合もありますが、これらがゲートウェイとなって反ワクチン的態度を持つようになる人がいることが明らかになりました。将来的なパンデミックにおける公衆衛生の維持のためには、陰謀論やスピリチュアリティが反ワクチン的態度の拡散につながらないように、その連関を断つような方法論が求められるだろう。としています。